じゃがいもの発芽日記

じゃがいもが発芽したよ

パソコンラックとアメコミ

「パソコンが欲しい」

歯抜けのように空白の目立つ家具に囲まれた私はそう呟いた。

元夫が家具を一部持って帰ったので、ところどころにぽっかりと穴が開いている。

その中でも一番気になるのは、パソコンの置かれていないパソコンラックである。

今はほぼ机と化していて、娘に触られて困るものがわんさと乗っている。

もともとキーボードの乗っていたスライド部分の板には、ほこりが積もり始めている。

私はパソコンが好きなわけではない。

だが、文章を読んだり、書いたりすることが好きだ。

 

「好きなことをしなさい」

 

友人が、私にそう言った。

彼は私の離婚に関して・・・いや、結婚生活に関しても、いろいろと助けてくれた人だ。

私が絶望に打ちのめされ、夫の一番になりたかった、とただ泣いた時、何も言わずにいてくれた。

それ以降もいろんな面でかなりお世話になって、ある日は励まされ、ある日は怒られ、とにかく私に時間を割いて、向き合ってくれた。

離婚を見据えて動いている時はよかった。

まるで憎しみが原動力のようになって、活動することができた。

三日三晩、ほぼ食べず、寝ずに過ごしても平気なほどだった。

体重は激減して、8キロも減った。

それでも、何かをしている時はよかった。

 

一番怖かったのは、突然訪れる“何もない日”だった。

 

無理をしてでも予定を詰め込んで、いろんなことをしていた。

でもそれも三週間ほどで限界が来る。

その空白の時間は、おそろしく長く、泥のような感情があふれては、私を足元から飲み込んでいった。

そんな時に、友人が言った。

「好きなことをしなさい」

私は茫然としてしまった。

「すきなことってなんだろう」

私は、気づけば好きなことが浮かばないような人間になってしまっていた。

自分の何もかもが、誰かのために作られたものだったように感じた。

あの人が喜ぶから、あの人がやっているから、そんなものばかりで私は固まっていた。

だから、すきなもの、と問われた時、私には何も浮かばなかった。

友人は少し悲しそうな顔をしたように思う。

それから、自分の好きなものを勧めてくれた。

最初に勧めてくれたのは、アメコミだった。

アベンジャーズシリーズを勧められて、私は勧められるまま見た。

自分が、どうすべきなのか、何もわからなかった。

手さぐりのまま、掴めそうなものはとりあえず掴んでみる、それが当時の私のスタンスだったように思う。

アベンジャーズシリーズはすべて見た。

その中でも、ちょろっとしか出てこないコールソンを好きになった。

その経緯から、エージェントオブシールドという海外ドラマにも手を出すのだけれど、それはまた別のお話にしようと思う。

御朱印帳も勧められたが、これはあまり自分には入ってこなかった。

神社や寺にあまり興味が持てなかったことが大きかったかもしれない。

他の人に勧められて、いろんな本を読んだり、音楽を聴いたり、自己啓発をしたり、ブログを読んだり。

そうやって勧められるものに片っ端から手を出して、そして、自分の好きなものを思い出していった。

 

まずは、本。

小説でも、漫画でもいい。打ちふるえるほどの良い作品に出合えたとき、世界はなんて素敵なんだろう、といつも感動する。

 

それから、写真。

カメラが好きだった。昔は、一眼を持って出かけていた。コミュニティにも参加していたし、自分の目に映るものを、そのまま刻みたいと思っていた。

 

そして、文章を書くこと。

文章を書くことが好きだった。自分の思い、気持ち、それを思ったままに書くことが好きだった。

本を読めば、自分もこんな文章が書きたいとよく思った。

 

私はぽっかりとした空間が散らばる部屋を見る。

この状態から、私は自分の手で空間を埋めて、そして生きていく。

きっと、それが人生なのだろう、と思う。

あいた空間を埋めることは、自分にしかできない。

今回の経験で、私が一番強く感じていることだ。

ならば、その空間に自分の好きを詰めようと思う。

そうしたら、きっと人生はより楽しくなると思うからだ。

 

今はゴミ箱と、娘のお菓子、ティッシュが置かれているパソコンラックを見る。

そこに、いつかパソコンが置かれるのを想像する。

そして、いつか自分でブログを書いたり、楽しいことを書くのだ。

今日の自分より、未来の私が、楽しいことで埋め尽くされるように。